テレビや本は今年も「日本スゴイ」の称賛であふれ返った。伝統文化もハイテクも全部スゴイ!テレビ各局が力を入れる年末年始の特番も日本礼賛のオンパレードである。だが、ちょっと待て。自己陶酔の先には何が待っているのか。この間、「世界の報道自由度ランキング」などで日本メディアの評判は下落の一途をたどった。戦時下の日本でも、「世界に輝く日本の偉さ」が強調され、やがて破局を迎えた。タガが外れ気味の「スゴイブーム」を斬る(白名正和、池田悌一)
十七日夜、「世界が驚いたニッポン!スゴ~イデスネ!!視察団」(テレビ朝日)の四時間スペシャルが放送された。「外国人ジャーナリストが世界に伝えたい!日本のスゴイところペスト50」と銘打ち、電車やトイレ、自動販売機などを紹介した。この手の番組では、外国人に褒めてもらうのがパターンだ。
通常は土曜日夜の一時間枠。番組ホームページ(HP)は「日本人でも知らなかった“日本の素晴らしさと独自性”を新発見でき、もっと日本が好きになれるバラエティです」とうたう。ビデオリサーチ社(関東地区)によると、直近の平均視聴率は12.9%で、「その他の娯楽番組」では 「笑点」(日本テレビ)[ブラタモリ](NHK)などに次いで七番目に高い数字だった。
年末年始は「スゴイ」番組が花盛り。二十九日には、日本が大好きな外国人に密徃する「世界!ニッポン行きたい人応援団」(テレビ東京)の三時間スペシャル。一月三日には、文化や人情を通して日本の良さを再確認する「和風総本家」(テレビ大阪)の二時間半スペシャルが控える。
出版界でも日本礼賛が定着した。紀伊国屋書店の新書ランキング(過去三十日間)の八位は「財務省と大新聞が隠す本当は世界一の日本経済」(講談社)、十一位は「世界一豊かなスイスとそっくりな国ニッポン」(同)が入る。十一~十二月には「JAPAN外国人が感喚した!世界が憧れるニッポン」(宝島社)、「なぜ『日本人がブランド価値』なのか ― 世界の人々が日本に憧れる本当の理由 ―」(光明思想社)などが相次いで出版された。
「日本スゴイ」は、社会の閉塞感の裹返しか、自信回復の表れか、はたまた排外主義や偏狭なナショナリズムの反映か。NHK放送文化研究所が五年ごとに実施する「日本人の意識」調査では、最新の二〇一三年の調査で「日本人は、他の国民に比べて、きわめてすぐれた素質を持っている」と答えた人は67.5%、「日本は一流国だ」は54.4%で、いずれも前回〇八年調査から増えた。
上智大の音好宏教授(メディア論)は「社会が閉塞する中で、日本をポジティブに紹介してくれる番組を視聴者が選ぶ状況になっている」と分析する。
一方、出版人らでつくる「ヘイトスピーチと排外主義に加担しない出版関係者の会」事務局の岩下結氏は、「スゴイ」ブームの起点を3・11に置く。「原発事故によって日本の技術がこてんぱんに打ちのめされたが、いつまでも引きずっていたくない。被害妄想からまず嫌韓本が広まった。これが批判を浴び、置き換わる形で十五年ごろから日本礼賛本が目立ってきた」
岩下氏は自己愛に浸るメディアの風潮に危機感を抱く。「言ってほしいことを確認することが目的になっている。自らを客観視できないことは非常に危険だ」
メディアが日本礼賛に走るのは、今に始まったことではない。
「『日本スゴイ』のディストピア 戦時下自画自賛の系譜」(青弓社)の著書がある編集者の早川タダノリ氏は「一九三一年の満州事変にルーツがある」と指摘する。
満州事変をきっかけに、三三年の国際連盟脱退など国際社会からの孤立を深めていった日本政府は、天皇中心の国家統治を前面に打ち出す。「当時のメディアは『次のトレンドは日本主義だ』とにらみ、『神の国日本はスゴイ』とPRする出版物を垂れ流すようになった」(早川氏)
「日本の偉さはこゝだ」「日本人の偉さの研究」「天才帝國日本の飛騰」「日本主義宣言」―。雑誌や書籍のタイトルを見ると、気恥ずかしくなるほどの礼賛ぶりである、最近の「日本スゴイ」ブームと同様、外国人が日本をたたえる内容は人気が高く、ナチスの青少年団体「ヒトラーユーゲント」が三八年に来日した際、「日本精神のいかに美しいかを体得した」などと発言したことが、大きく報じられたという。
早川氏は「読者も自分が素晴らしい国で暮らしていると確認したかったからか、よく売れた。それまでは日本主義を批判する学者もいたが、官民を挙げたムードがあまりにも強まってしまったため、批判勢力が市場から締め出された。第二次世界大戦に突っ込んでいった一因とも言える」と解説する。
敗戦とともに「日本スゴイ」の嵐は過ぎ去り、六〇年代の高度経済成長期も乱用されるようなことはなかった。ところがバブルが崩壊した九〇年代、再び頭をもたげてきた。前出のNHK調査によれば、「日本人はすぐれた素質をもっている」と考える人の割合が減少を続けていた時期と重なる。早川氏は「政治家が『日本人としての誇りを取り戻せ』と振った旗に、メディアが呼応するようになった」とみる。
そして二〇〇六年に誕生した第一次安倍政権で「美しい国」が連呼され、改正教育基本法に「愛国心」が盛り込まれたことで「愛国心を強調する出版物が再びあふれ返るようになった」(早川氏)。
まさに今、安倍政権下で「日本スゴイ」ブームが吹き荒れている。しかし、世の中を見渡せば、貧困・格差の深刻化、アベノミクスの迷走などなど「スゴくない」話ばかりだ。
メディアの問題について言えば、権力監視機能の不全が叫ばれて久しい。国際NGO「国境なき記者団」による「報道の自由度ランキング」で、日本は一〇年は十一位だったものの年々下落。一五年は六十一位、今年は七十二位に沈んだ。
「安保法制の廃止と立憲主義の回復を求める市民連合」の中心メンバーでもある中野晃一・上智大教授(政治学)は「日本の経済は低迷を続けており、国内総生産(GDP)は中国に追い抜かれ、一人当たりGDPは韓国に迫られている。自信が持ちにくい国になっている裏返しとして、聞き心地のよい言葉がもてはやされているのでは」と分析した上で、安倍政権に矛先を向ける。
「国会で強行採決を繰り返す安倍政権の抑圧的な姿勢は、国民の尊厳を傷つけ続けている。一人一人が大切にされていると思えるような社会になれば、『日本スゴイ』なんて言われなくても済むようになるはずだ」
国立青少年教育振興機構が昨年発表した調査では、「自分はダメな人間だと思うことがある」と回答した高校生が72%。若年層は自己肯定感が低いのに「スゴイ」だけが上滑りしている。中野教授は警告する。
「自分たちの弱さや限界を受け止めるのが先決。それなのに本質から目を背けて『スゴイ』と強がらないと、生きにくい社会になってしまっている。まず政治が変わらないといけない」
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